昭和レトロが過ぎる!チン電で巡る大阪ディープ純喫茶ツアー

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トミモトリエ

ツッコミ

こんにちは、トミモトリエです。

『ヘンとネン』では、80歳以上の店主が営む喫茶店を巡る連載「冷コーと温故」を執筆中ですが、連載第1回目で紹介した喫茶店も既に閉店したり外装が変わったり……刻々と状況が変化しています。

ということで、今回の「大阪蛇行案内」は、埼玉県の鳩山ニュータウンで活動する、昭和レトロアーティストの菅沼朋香さんをゲストに、早く行かないと後悔する「生きた昭和遺産」としての純喫茶を一気にご案内。

とはいえ、ポイントを絞らないと移動が大変なので、今回は「チン電で巡る大阪ディープ純喫茶ツアー」と題して、チンチン電車こと「阪堺電車」沿線の駅に絞ってご紹介します。

案内される人
菅沼朋香
昭和レトロアーティスト。生活芸術家として昭和の高度成長期をテーマに活動。東京藝術大学大学院先端芸術表現専攻修了。「あいちトリエンナーレ2013」に出展。2017年より超高齢ニュータウンを題材にしたアートプロジェクトに取組むために埼玉県の鳩山ニュータウンに移住。元空家の自宅を改装したサイケデリックカフェ「ニュー喫茶幻」を主宰。昭和レトロを楽しむ暮らしを発信中!
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蛇行ダイジェスト
トミモト
ようこそ、大阪へ。菅沼さんとは「マニアフェスタ Vol.7 in ニコニコ超会議2023」で出会って、大阪の昭和レトロ喫茶を案内するという約束をしたんですよね。

マニアフェスタの話は「ちゃんとちゃんとしないラジオ」で聴けます

菅沼朋香
大阪は何回も来てるんですが、喫茶店は[アメリカン]とか[マヅラ]とか超有名どころしか行ったことなくて。高度成長期をテーマに作品を作るようになったのも、名古屋の神宮前にある[ロアール]っていう純喫茶を訪れたことがきっかけなんです。効率化とは程遠いインテリアの工夫がたくさんあって、右肩上がりの時代の「未来への希望」を感じる、高度成長期に作られたデザインが大好きで……。
トミモト
わかります!! 高度経済成長期、特に大阪万博があった1970年代の建築って「いい無駄」が多くて、熱量が高い。菅沼さんは、自宅で昭和レトロをテーマにしたコミュニティカフェも運営してるんですよね。
菅沼朋香
今は埼玉県比企郡鳩山町の「鳩山ニュータウン」※に移住して、超高齢ニュータウンのまちおこしプロジェクトに参画しています。元空家の自宅を改装したサイケデリックカフェ「ニュー喫茶幻」を運営しながら、昭和レトロなライフスタイルをYouTubeで発信したり、空家の庭に実っているフルーツで焼き菓子を作る「空家スイーツ」を販売したり。

※鳩山ニュータウンは、65歳以上の高齢化率は約52%(2019年時点)、空き家は100戸以上という超高齢化タウン。

自宅を改装した「ニュー喫茶幻」。
トミモト
そんな菅沼さんを案内したい喫茶店がたくさんあるんですよ!!!

恵比須町:新世界の老舗ブラザーの芸術的なレスカ

大阪メトロ堺筋線「恵比須町駅」3号出口からすぐ、通天閣本通商店街にある、1950年(昭和25年)創業の[ブラザー]。
トミモト
まずはこちら。新世界の喫茶店といえば[ドレミ]が有名ですが、新世界で一番古い[ブラザー]もおすすめ。昭和レトロマニアはたまらない店だと思います!
菅沼朋香
ドレミは行ったことあるけど、ここは知らなかった……。
菅沼朋香
ショーケースとか、ドアガラスのシールがたまらないですね……。
トミモト
早速中に入りましょうか。
菅沼朋香
うわぁ〜。ガチの昭和レトロ空間ですね。天井が歴史を物語ってる……。壁もちょっと珍しいパターン。
トミモト
この店で注文してほしいのは「レスカ」ことレモンスカッシュ! あと、新世界といえばやっぱり「ミックスジュース」ですね。
菅沼朋香
どっちも飲みたい!!
レモンスカッシュ(生)650円とミックスジュース500円。サービスのビスケット。
菅沼朋香
えーーー! レモンの切り方が芸術的……。かわいい〜!
トミモト
生レモンがたっぷり絞られてます。まずはそのまま飲んで、後からシロップを足して調整してみて。
菅沼朋香
これは目が覚めますね(笑)。朝の眠気覚ましにコーヒーじゃなくてレスカも正解かも!
菅沼朋香
んー、ミックスジュースも美味しい! バナナと……桃の味もする? 何が入ってるのかわからないけど、まろやかでやさしい味。
トミモト
ミックスジュースは店によって味が違うので、大阪に来たら色々飲み比べてほしい。
「写真撮ってどんどんSNSで宣伝して」と、笑顔が素敵すぎるマスター中川さん。
菅沼朋香
それにしても、マスターが素敵すぎる……。
トミモト
今のマスターは二代目で、元々はマスターのお母さんとその弟さんが姉弟ではじめた店らしいです。
『美しい純喫茶の写真集』に掲載されている。

開店当初は、酒類も提供する「カフェー」として営業していたが、現マスターが高校生になる頃に、お酒の提供をやめて「純喫茶」の形態になったとのこと。

喫茶 ブラザー
大阪府大阪市浪速区恵美須東1-14-16
06-6643-6026
営業時間:7:00~17:00
定休日:火曜

1日600円で乗り放題!チンチン電車で堺市方面に南下

今日は「チン電で巡る大阪ディープ純喫茶ツアー」ということで、チンチン電車「阪堺電車」に乗って大阪市から堺市まで南下します!

ここで重要ポイント!! 阪堺電車は、距離にかかわらず乗車1回230円(小児120円)という料金設定なんですが、600円(小児300円)で全区間1日乗り放題の「てくてくきっぷ」というチケットがあるんです。

阪堺電車「てくてくきっぷ」。
スクラッチ式で、使用する日をコインなどで削る。
生憎の雨の日。阪堺電車の恵美須町停留場はリニューアル工事中。

天王寺駅前・我孫子道・浜寺駅前の各乗車券発売所で販売していますが、乗車時に運転手さんから購入することもできます。

詳しくは阪堺電車のホームページで

※もうひとつ、「RYDE PASS」というアプリから購入できる「トリップチケット」もあるらしい(こちらは更に特典付き)

菅沼朋香
こんなお得なチケットがあるんですね!
トミモト
そうなんです。3回乗れば元が取れるので、途中下車するなら「てくてくきっぷ」の方がお得なんですよ。
菅沼朋香
まず、どこで降りるんですか?
トミモト
ここで残念なお知らせがありまして。2軒目に行く予定だった住吉の[喫茶タンポポ]が休業してるみたいで。
菅沼朋香
うわー、残念。一番楽しみにしてました(涙)
トミモト
すみません。過去に私が行った時の写真を見てください……。
菅沼朋香
いつかリベンジします。

オレンジ色の装飾テントを電車の中から遠目で確認しながら住吉を通り過ぎ……次の目的地高須神社へ。

高須神社:年季の入り具合がレベチな喫茶ラックの絶品卵サンド

高須神社停留場を降りて右に曲がった瞬間にすごい光景が飛び込んでくる。
菅沼朋香
え????
トミモト
ここです。
菅沼朋香
嘘みたい。年季ってレベルじゃない……。本当に営業してるの?
トミモト
営業してます。ドアを開けてみてください。
4人席が1つと2人席が2つの小さな店。カウンターは使われていない。
菅沼朋香
す、すごい……すごいです。
トミモト
お昼ごはんに「たまごサンド」を食べましょう。
菅沼朋香
ちょうどお腹空いてきたところでした。
たまごサンド400円(これで一人前)。2人前注文しようとしたので「1人前で大丈夫!!」と止めました。
菅沼朋香
わーー!! 美味しそう。思ったよりめちゃくちゃ多い。
トミモト
2人でシェアしてちょうどいいくらいなんですよ。
菅沼朋香
これが400円!? 本当に??
トミモト
信じられないでしょう……? しかもめちゃくちゃ美味いんですよ!
菅沼朋香
んーーーー・・・・
トミモト
どうですか?
菅沼朋香
美味し過ぎます!!!! ふわっふわでジューシー。マヨネーズの味もしっかりしてる。幸せ。関東のたまごサンドと違いますよね。
トミモト
そう、たまごサラダのたまごサンドではなく、厚焼きたまごなんですよねー。
菅沼朋香
あっ! たまご焼きがジューシーすぎて服に汁が垂れたんですけど(笑)
トミモト
あるある!
菅沼朋香
アイスティーのグラスも底がお花になっててめちゃくちゃかわいい〜。
喫茶 ラック
大阪府堺市堺区北旅籠町東2-1
072-229-7583
営業時間:7:00~17:30
定休日:月曜

大小路:96歳現役マスター!喫茶フレンドの愛す・コーヒ

1967年(昭和42年)創業の[喫茶フレンド]。営業しているとは思えないが、ドア横の札は「OPEN」になっている。
トミモト
正直、営業しているか定かではなかったんですが、「OPEN」になってますね。
菅沼朋香
店内真っ暗なんですけど……。
トミモト
よく見ると、奥のカウンターは電気ついてます。とりあえず入ってみましょう。
「いらっしゃい」と迎え入れてくれたマスター。「この時間はあえて電気消してる」とのこと。
菅沼朋香
うわあああ・・・・(絶句)
トミモト
ガチの昭和遺産です。
シースルーのカーテンが素敵な窓際の特等席。
「この角の作りが最高」
反対側の壁のV字装飾もカッコイイ。
菅沼朋香
壁の装飾が素敵すぎます。青い絨毯も白いレザーチェアも……どの角度から見ても最高。
トミモト
なんと、こちらは96歳のマスターが昭和42年の創業から現役で続けられているんです。
菅沼朋香
きゅうじゅうろくさい!?
トミモト
壁のメニューにある「愛す・コーヒ」を注文しましょう。
菅沼朋香
ネーミングセンスが愛しい……。でも、その上にある能面の絵が気になりすぎてメニューが入ってこない(笑)
トミモト
確かに、どうしても能面が目に入ってきますね(笑)
愛す・コーヒ(アイスコーヒー)400円。
菅沼朋香
濃くて甘いコーヒー。愛情の濃さを感じます。
トミモト
創業56年の深みとマスターの愛嬌がたまらんですね。
マスターの西出さん。 
ところどころにピエロの人形が。 
レジの後ろの鏡にもピエロ
「マッチ余ってるからようけもらってって〜」とマスター。

店内にたくさん飾られてるピエロの人形はマスターの兄弟が送ってくれたものだそう。今も、日曜・祝日以外は毎日店を開けているというマスター。すごすぎます。

喫茶 フレンド
大阪府堺市堺区熊野町東3-2-3
営業時間:9:00〜16:30
定休日:日曜・祝日
※看板やマッチに記載されている電話番号は現在使用できないそうです

寺地町:MUCとの関係は……?クラシカルでメルヘンなスコーレ

1971年(昭和46年)創業の[スコーレ]。
トミモト
2つ先の寺地町にある[スコーレ]にやってきました。
菅沼朋香
メルヘンで上品〜。そして、電気がついてると安心します。
トミモト
看板の上のパトランプも光ってるし、今回は遠目でも営業してることがわかりましたね(笑)
2022年に塗り直された鱗模様の外装。オレンジ色が鮮やか。
菅沼朋香
ドアを開けるまでの前庭で世界観に引き込まれます。
トミモト
ここはカップもクラシカルで素敵なので、ホットコーヒーとホットティーを注文しましょう。
窓際に着席。マイルドコーヒー430円と紅茶420円。
菅沼朋香
香り高くて美味しいコーヒーです。
トミモト
ここは、昔から大阪の老舗コーヒーロースター「MUC(上島珈琲貿易)」のコーヒーを仕入れているそうです。
菅沼朋香
BGMもクラシックですね。落ち着きます。
菅沼朋香
このタイプの椅子はよくあるけど、色と柄が珍しい。ステンドグラスも素敵。奥のカウンター席はよりクラシックな雰囲気ですね。
トミモト
そうなんですよ。奥のカウンターと椅子は、同じ堺市に本社があるフランチャイズ[珈琲専門店MUC]とそっくり。というか、椅子は多分同じ(MUCと違って固定されていないバージョン)です。

確認したところ、昔からの付き合いで、壁のプレートと椅子は閉店した[珈琲専門店MUC]の店舗から引き継いだものなんだそうです。

スコーレ
大阪府堺市堺区新在家町東2-1-29
072-229-9837
営業時間:6:30~18:00
定休日:日曜

北天下茶屋:折り返して昭和レトロ喫茶の聖地へ

余韻に浸ってご満悦の様子。
せっかく寺地町に来たので……。
老舗和菓子店[かん袋]で堺名物の「くるみ餅」もGET。
トミモト
既にご満悦の様子ですが、寺地町から折り返して、最後は「北天下茶屋」に行きます。
北天下茶屋停留場に到着。

ここからはサクサクと外観だけ紹介していきます。

トミモト
今は16:00を過ぎているのでもう閉まっていますが、北天下茶屋駅すぐ近くというかホーム直結の[コーヒールンバ]はモーニングが充実していて、10種類から選べるんですよ。
菅沼朋香
ホームに入り口があるのは驚き(笑)
トミモト
過去に撮った写真をどうぞ。

過去の写真

ホームではなく反対側からの入口。
アイスコーヒーとサンドイッチ(モーニングではない)。
コーヒールンバ
大阪府大阪市西成区聖天下1-12-14
06-6653-9571
営業時間:7:00~15:00
定休日:水曜
北天下茶屋停留場西側にある[珈琲屋ナカノ]。
トミモト
そして、すぐ近くにもうひとつ最高な喫茶店があるんですよ。
菅沼朋香
外観から良さそうな雰囲気が滲み出てます。
トミモト
大阪発の喫茶店としてかなり有名な[丸福珈琲店]から暖簾分けした店で、内装もショーケースに飾られているコーヒーカップも素敵なんです。個人的にめちゃくちゃお気に入りの店です。今日は時間がないので次の機会にぜひ。

過去の写真

見てくれ!この最高な店内を!
ストロングなコーヒーに白い角砂糖が2つ。
見てくれ!この最高なショーケースを!
珈琲屋ナカノ
大阪府大阪市西成区天下茶屋2-5-15
06-6653-9575
営業時間:13:00〜
定休日:水曜

おまけ

商店街を抜けて……
天下茶屋駅前の[バード]。
天下茶屋駅西側の[紫苑]も外観だけチェック。

チンチン電車での純喫茶巡りは終了。北天下茶屋から西天下茶屋方面を案内したついでに、最後にもう1軒、最後のおまけです。

ここまで来たら行くしかないでしょう、あそこに!

おまけ:最終兵器……マル屋を浴びてほしい

チカチカしながら弱々しい光を放つソフトクリームライトが不穏な空気を醸し出している。
トミモト
「メニューが解読不能な古文書」でおなじみ、破壊力高めな昭和遺産[コーヒーショップ マル屋]です。確か今年で創業88年のはず。
菅沼朋香
ヤバい予感しかしない。
トミモト
覚悟してください。私はもう5〜6回来てますが、何度来ても入る瞬間は緊張します。異世界への入口を通る感覚です。
菅沼朋香
ドキドキします。
トミモト
ちなみに、席に座ると間髪入れずに「何にしましょー」って注文を聞かれるので、じっくりメニューを解読している時間はないです。ここではパフェを食べましょう。あと、キャッシュオン制なので机の上にお代を出しておくのがスマートです。
チョコレートパフェ200円。パフェを2つ注文しようと思ったら、パフェは1つしか無理と断られました。
菅沼朋香
かわいい〜! って、これ、200円って本気ですか?
トミモト
本気です。
生クリームとフルーツとチョコレートソース。ポッキーも刺さっている。
菅沼朋香
フルーツまで乗ってますよ? うん、美味しい〜。
トミモト
他にも、ホットコーヒーは160円、クリームソーダが140円、バナナジュースは100円という値段設定です。
菅沼朋香
本当に古文書ですね。印刷し直すことなくこのまま使い続けるところに強い意思を感じます。付け加えられたメニューや価格の訂正が多すぎて解読が難しい……。
トミモト
訂正前の価格を見ると、昔はチョコレートパフェが400円だったんですよ。それが200円になってる。天丼なんて720円が290円になってる。値上がりしたのかと思ったら、メニューの風化と共に安くなってるんです。価格破壊ってレベルじゃない。
菅沼朋香
大阪の底力を見せつけられました。
まさに生きた昭和遺産。
曇ったショーウィンドウ、値札は新しくなっている。
ホットケーキ80円(今日は焦げてないけど、焦げてる確率が高い)。
コーヒーショップ マル屋
大阪府大阪市西成区千本北2-1-33
06-6661-9166
営業時間:7:00〜19:30
定休日:不定休
トミモト
今日一日、どうでしたか?
菅沼朋香
案内してもらわないと絶対辿りつかない店ばかりでした。いやー、全部幻だったんじゃないか? って感じです(笑)
トミモト
本当に幻になってしまうかもしれないですからね。
菅沼朋香
「また次」はないかもしれない……。今日行けなかったお店も早く行かなきゃ!と思います。
トミモト
またすぐにでも大阪に来てください!!

おまけ

最後は[和知万酒店]でおつかれさまの乾杯。
同行していたイベントプロデューサーのトヨ元家さん。
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