⸺その器は?
東京に住んでいた1〜2年前、板橋にあるおじいちゃん経営のリサイクルショップで見つけた、東洋陶器のカップ&ソーサーです。いまや世界レベルの便器メーカー・TOTOも、かつては食器を手がけていたのがまず驚きですが、話を出会いに戻します。「昭和レトロ」が際限なく並ぶ店内は、まさにカオスそのもの。コップに花瓶、人形などなどいろいろな商品が雑然と放り込まれたショーケースで、ただならぬ存在感を放っていたのが、このカップ&ソーサーなんです。まるで「私を見つけて」とでも言わんばかりの輝きっぷりで、すぐに目に留まったことはいまでもよく覚えています。1客300円という破格ぶりにもびっくり。同色ばかりなのに、そこにあった5客すべてを「救出」してしまいました。去年、大阪に転居してくるときもガチガチに梱包しましたね。
⸺その器のええところを教えてください。
手元から旅立っていったものもあるものの、2客はどうしても手放せなくて。カップ&ソーサーはたくさんコレクションしていますが、それくらい愛着があります。和とも洋ともつかぬ言葉にできないデザインは、もはや「令和モノ」ではありえないんじゃないかな。カップをひっくり返せば「Toyotoki」の筆記体ロゴが。これをもとに調べる限り、1970年以前に製造されたのは確かみたいです。一介のデザイナーとしては、高度経済成長期のウキウキ感がしっかり伝わってくるのが「ええところ」。実用性から乖離したソーサーの造作も、萌えポイントですね。「いや、丸でいいじゃん」って思っちゃう。そこが愛おしいんですけど。特別なゲストを自宅に迎えたときは、自然と手に取ってしまいます。
⸺あなたにとって器とは?
飲食に使う実用品でありながら、モノによっては土地や時代を思うままに旅することのできる、とてもすてきな「メディア」だと思います。食べることも大好きですが、手に取って見て楽しむこともできる。こんなにお得なことって、なかなかないですね。仕事では平面のデザインを扱うことが多いだけに、形のあるものが空間演出してくれることのインパクトは大きいなと改めて。これからもデザイナーを生業にしていくつもりですが、自分の創作したものが少しでも立体の持つパワーに肉薄できるような仕事がしたいです。そのためにも、折に触れてこのイカしたカップ&ソーサーに愛情を注ぎ、お茶ないしココアを注ぎ、自分自身にパワーを注ぎ込もうと思います。
※掲載時(2024年4月1日)の情報です
取材・撮影:関根デッカオ