⸺その漫画は?
藤原カムイ先生の短編集『遊人PIΔ(ゆうとぴあ)』です。同人誌に掲載された1979年のデビュー当時の漫画も含め、全7作が収録された初期作品集。カムイ先生の作品は『ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章』が有名だけど、私は前衛的な初期作品の世界観が好き。『ガロ』系の漫画が好きだった父の影響もあって、つげ義春、ねこぢる、日野日出志さんあたりの作品を読んで育ちました。中学生の時は「漫画イラストレタリングクラブ」って部活に入って、自分で絵を描いたりもしたけど……漫画に対するリスペクトが強すぎて自分では描けなくて。今はDJとして、大好きな漫画からのインスピレーションを音にしています。
⸺その漫画のええところを教えてください。
コマ割りが大胆で、実験的な作品ばかり。漫画なのに映像のような作品が多くて、読んでいると自然と脳内で音楽が再生されるんです。DJになったのは、「情景に音をつけたい」という衝動から。旅が好きで、21歳の頃から7年くらい、バックパッカーとして国内外いろんな場所で季節労働をして生活していました。北海道のシャケバイ(鮭の加工バイト)とか、沖縄でサトウキビ狩りをしたり。大阪に住んで6年になるけど、自分の意思で長く住むのははじめて。本当は都会が苦手で、旅に出たくなる時もあるけど、今はめくるめく大阪の景色にビートを刻んでいます。
⸺あなたにとって漫画とは?
どこにもない知らない世界に旅立たせてくれるもの。平面の紙の中にものすごい奥行きがあって、脳内でその広い世界が拡張される。私は漫画を作ることはできないけど、DJとして音楽からそんな世界に連れて行きたい。旅先で出会った人と一緒に音楽を聞いた瞬間とか……ロケーションと音のオーバーラップで泣いてしまうことがあって。心踊る景色を、音楽でより鮮やかにできたらいいなと思っています。
※掲載時(2024年5月25日)の情報です
取材・文:トミモトリエ