⸺その儀式は?
1時間に1回、その場にいるお客さん全員でする「乾杯」と、ハイボールが無料になる「チンチロ」です。
うちの屋台、ハイボールが一杯200円なんです。採算度外視もいいとこなんですけど、まずは驚いて足を止めてほしくて。更に、注文するとサイコロを振る「チンチロ」の儀式があって、ゾロ目が出たら無料になります。お会計はキャッシュオンで、升(マス)に入れてもらうスタイル。海外のお客さんには珍しいみたいで喜ばれますね。そして、この屋台の最大の儀式が、1時間に1回の「乾杯アワー」。その場にいるお客さんの中から一人「本日の主役」のタスキをかけてもらい、乾杯の音頭をとってもらいます。この儀式が始まると一気に一体感が生まれて、誰も他人じゃなくなるんですよ。
⸺その儀式のええところを教えてください。
見知らぬ人同士が、一瞬打ち解ける「魔法」みたいなところですね。
シャッター街を復興する「新世界市場屋台街プロジェクト」の初代店舗として2022年にこの屋台をスタートしたんですが、最初は本当に人が来なくて、売り上げがない日もありました。でも、1時間に1回の乾杯を始めたことで、たまたま居合わせた人たちが仲良くなって、常連さんになって。あと、乾杯をしていると足を止めて動画を撮る人も多いので、SNSを見て来る人も多いですね。こんな小さな屋台なのに、今や50人以上ひしめき合うこともあります。
うちは夫が作る鉄板料理も売りですけど、近所の老舗のお肉屋さんやお漬物屋さんで買った「持ち込み」もOKにしてるんです。そうすることで、屋台だけじゃなく商店街のお店も潤うし、昔ながらの人情味あふれる雰囲気も守れる。西宮で育って、縁もゆかりもない場所なのに、今や生まれ育った地元みたいになってます。
儀式を通じて街が元気になっていく。周りの老舗とも共存できる。この温かい循環が、一番のええところですね。
⸺あなたにとって儀式とは?
乾杯は「心のハグ」だと思っています。ただお酒を飲むだけじゃない。コップを合わせた瞬間、警戒心が解けて、相手を受け入れる準備ができる。
私は、大阪を「乾杯の街」にしたいんです。「1時間に1回乾杯する」という文化をここで流行らせて、もっと広げていきたい。
私は、3児の母であり、ネイリストであり、経営者であり、いろんな顔があります。木金は神戸の店、それ以外はここ。休みなんてないけど、全然苦じゃない。
インスタで偶然このシャッター商店街の募集を見た時に、直感で「ここや!」って思ったんです。夫にも「あんた、こんなん好きやろ?」ってそそのかして(笑)。前世で何かあったんじゃないか……?ってくらい、この場所がしっくりきてます。泣いたり迷ったりした過去もあったけど、私の人生のすべてを肯定してくれるのが、ここでの乾杯の瞬間なんです。
※掲載時(2025年11月26日)の情報です
取材・文:トミモトリエ







