⸺そのアートは?
能面の一種、「真蛇」です。みなさん「般若」はよく知っていますよね。嫉妬に狂ってしまった女性の姿が般若です。なので、元の女性の面と比べてみると、髪の毛の表現など共通する部分がいくつかあるんです。真蛇は、怨念が般若を超越した姿です。顔の彫り込みが深くなり、目も見開いていて、より恐ろしい表情になっています。わかりやすい般若との違いは、耳がないこと。もはや人間ではなくなってしまっているんですね。
⸺そのアートのええところを教えてください。
おどろおどろしさを表現するために、いろんな工夫がなされているところです。お客さんが見たときに、どういう効果を与えるのか、めちゃくちゃ考えて作られている。面の造形には、物語に対する能面師の解釈も織り込まれるんです。さらに作り手のオリジナリティも入っていて、まさに芸術作品。目の部分に真鍮が埋め込まれていて、金色に光るものもあります。ストーリーによって真蛇になるまでの過程も違って、ある物語では、元の女性の姿と般若の間に、中間の面を挟むこともあるんですよ。能の世界は奥が深くて面白いです。
⸺あなたにとってアートとは?
和面は、自分を守ってくれる存在です。個人的にもコレクションしていて、自宅には30枚近く保管しています。面は能の道具ですが、魔除けとしても重宝され、家などに飾られてきました。直接的な実用性はありませんが「自分に悪いもの寄せ付けないお守りを持っている」という安心感をくれることに価値があると思っています。それだけじゃなくて、好きなものをバーっと並べて置くことで「今、自分がどういうものが好きなんかな?」ということを、あらためて考えることができる。壁で見ると、自分の状態というか感覚がパッとわかるんですよね。
※取材時(2024年12月1日)の情報です
取材・撮影:はまだみか
文:山瀬龍一