どっちの「卵料理」でSHOW! 北京(梅田)VSおがわ(肥後橋)

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スズキナオ

ツッコミ

ライター・編集者の納谷ロマンさんと私(スズキナオ)の二人が、お互いの好きな居酒屋を紹介し合うこの企画。毎回、おつまみメニューを一品選び、それを軸にお店を選ぶことになっている。ちなみに前回は「粕汁」がテーマとなり、それぞれの心の中のある「粕汁が美味しい店」を訪れて楽しく飲んだのであった。

「今度は卵を使った料理をテーマにしましょう」と、納谷ロマンさんに提案してもらい、「卵か。だし巻きか玉子とじか?いや、オムレツか天津飯か……」と私なりに悩み抜いた。

さて、二人はどんな店のどんな卵料理に出会えるのだろうか。胸の高鳴りを抑えながら、今日も飲みに行ってみよう!

新梅田食道街の老舗「北京」の名物料理と言えば

最初にやって来たのはJR大阪駅や阪急うめだ駅にもほど近い新梅田食道街の「北京」だ。新梅田食道街は1950年に開業した飲食店街で、ガード下の敷地に約100店舗がひしめく壮観なスポットである。その中には開業当時から続く老舗も多いのだが、「北京」もそんなお店の一つ。立ち飲みスタイルの洋酒バーで、エッグベーカーという調理器具を使って作られる「エッグ」が名物料理である。

美しい琥珀色のビアで口開け。すばらしい喉越しで一瞬でなくなった。
ナオ
個人的にはちょっと久々に「北京」に来たのですが、やっぱりいい雰囲気ですね。まずは乾杯を。
ロマン
乾杯ー!いやー!うまい。さて、何食べましょうね。
ナオ
今回、「卵料理で行こう」という話になって、自分なりに色々考えた結果、やっぱり「エッグ」だろうと。卵そのものですから。なのでそれは一人ひとつずつ食べるとして……。あ、短冊メニューに「玉子とうふ」もあるな(笑)
ロマン
エッグと、玉子とうふも頼みましょう。板わさもいいですか?
久方ぶりに口にしたたまごとうふは、とてもやさしい味わいだった。
ナオ
あ、来ましたよ。
ロマン
うわ〜おいしそ〜〜〜!
女将(斎木澄子さん)
これね。底にお塩が沈んでいるので、熱いうちに底の方からお箸でかき混ぜて、やわらかいうちに食べていただいた方が美味しいです。
ナオ
では、いただきます!ああー!うまい!これ、究極ですよ。これ以上に玉子を美味しく味わう方法あるのかなっていう。
ロマン
たしかにこれは究極ですね。素直な美味しさ。スクランブルエッグでもなく、ゆで卵でもなく、目玉焼きでもない。
ナオ
少しずつ食べておつまみにできるのもいいですよね。どんなお酒にも合いそうだし。
ロマン
このエッグベーカー、欲しいですよ。「誕生日に何欲しい?」と聞かれたらこれにしよう。
このように箸でくずして、ぐちゃぐちゃにして食べる。
ナオ
(女将に向かって)このお店は創業74年とのことですが、「エッグ」は創業時からあるメニューなんですか?
女将
はい!そう、みたいです。私も初代の店主がなぜエッグを出すようになったかといういきさつまでは分からないんですけど……。
ロマン
(女将に向かって)お母さんがお店に立つようになってからどれぐらいになるんですか?
笑顔が素敵な女将。ビールを注ぐ姿を見ているだけでも、杯が進む。
女将
もともとは主人の手伝いで入ってたんですよ。その年月を入れるともう30年ぐらいになりますけど、主人が亡くなって一人でお店をするようになって6年目ですね。ここに立つまでは専業主婦で、三食昼寝付きのグータラ生活をしてたんですけど(笑)
ナオ
ここは「エッグ」をおつまみにしてサッと1杯か2杯ぐらい飲んで帰るみたいに、気軽に寄れる感じでいいですよね。
ロマン
本当ですね。「なんきん煮」もほくほくで美味しいです。「神の河」のソーダ割りに合うなぁ。沁みる……。
ナオ
本当だ。このかぼちゃ、美味しい!今回、かぼちゃ対決でいきたいぐらいです。
ロマン
いやいや。すごく美味しいけど、今回は卵料理ですよ!
数杯酒をいただいて、アテもいくつも頼んだのに、この値段。ありがたい。

現店主の斎木澄子さんによると、初代がこの場所で「北京」を始めた時は、民芸調の装飾が施された樽酒の専門店だったのだという。それが2代目である斎木澄子さんの夫に代替わりする際、フランスやドイツのパブをモデルにして現在のスタイルになったのだとか。時代は移り変わっても、「エッグ」の素朴で奥深い美味しさはきっと変わらずに受け継がれてきたのだろうと思う。

45年続いてきた店を若き店主が引き継ぐ「おがわ」

梅田から肥後橋へと移動し、今度は納谷ロマンさんおすすめの卵料理が食べられる居酒屋「おがわ」へ。この店、名店の多い肥後橋にあって45年に渡って続いてきた「江里花」という店をほぼ居ぬきで引き継ぐ形で2024年4月にオープンしたばかりのお店なのだとか。堀江の「おでんまる」で料理の腕を磨いてきた店主の小川さんによる、日本料理をベースとしたおつまみが味わえるほか、「江里花」から受け継いだ細巻きも人気の品になっている。

ナオ
ここもまた、落ち着く雰囲気のお店ですね。
ロマン
本当にいい店なんですよ。僕は週に1、2回は仕事終わりに来て、1杯か2杯か3杯飲んで、ちょっとアテを食べて帰るっていうのがルーティーンになっていて。
ナオ
ここの卵料理というのは?
ロマン
「チャーシューエッグ」ですね。他にもいくつか注文しましょうか。ちなみにこの店、お客さんがみんな食いしん坊だと思っているので、量が多いんですよ(笑)
ナオ
サービス精神の店ですね。どうしようかなー。
ロマン
スピードメニューなら「油みそきゅうり」がちょうどいいアテですよ。
ナオ
じゃあそれと「海鮮なめろう」と「チャーシューエッグ」にしましょうか。
ロマンさん、腹具合がパンパンの時は、コレとウーロンハイだけで終わる日もあるんだとか。
ロマン
この油みそは、チャーシューの端を使って作っているそうで、旨いんですよ!
ナオ
本当だ。美味しい!そして油みそがめっちゃたっぷりある。
ロマン
そうそう。これだけでちびちびと飲めてしまうんですよ。
鮮魚を叩いて味噌で和えたシンプルなめろう。海苔に巻いて頬張れば至福。
ナオ
うおー!なめろうもまたボリュームたっぷりだ!これも美味しい!
ロマン
んー!!うまい!最高です。この店でなめろうを頼んだのは初めてかも!この店は「のざき(同じ肥後橋にあるアジア料理店)」の系列店なんですけど、店長の小川さんは「のざき」でランチを出してた時もあって、アメリカンなフードを作るのも得意なんですよ。チキンオーバーライスとか、タコライスとか。
ナオ
それでいて、なめろうもこんなに美味しく作ると。
ロマン
腕がありますよね。グラタンも美味しいんですよ。エビが怖いほど入ってて(笑)そうこう言ってる間に来ましたよ。チャーシューエッグが。
自家製のチャーシューに、エッグがふたつ。辛子とマヨをでっぷり浸けて食すべし。
ナオ
ちょっともう、これ、卵料理の範疇を超えてませんか(笑)
ロマン
すごいでしょ!こんなにチャーシューでかくていいのかっていう。ちょっとズルな気もしたんですが。まあ、良しとしてください…!
ナオ
うま!ああ、卵の黄身がチャーシューの旨味をさらに引き立ててくれていますね。
ロマン
卵の背徳感みたいなものを感じますよね。
ナオ
レモンサワーにぴったりですよ(店主の小川さんに向かって)どれを頼んでもボリュームたっぷりですね。
店主
ついつい盛ってしまうんですよ。ええかっこしたいっていう。まあ、ええかっこの仕方、間違えてるかもしれないです(笑)
店主の小川さんは、高身長でガタイもいいのですが、こう見えてシャイです。
ナオ
いや、でも、どれも美味しいです。この老舗の風情のある空間で、小川さんや若いスタッフのみなさんが賑やかにやっているというのが面白いですね。
店主
この店はこの雰囲気ありきだと思っています。サラリーマンのお客さんが多いので、雰囲気を壊さないようにやっています。
ナオ
前からの引き続きのお客さんも多いんですか?
店主
そうですね。少なからず来てくれています。
ナオ
小川さんも前の「絵里花」によく飲みに来てたんですか?
店主
はい、来てました。名店でしたよ。大将がここを辞めるっていう話になった時に声をかけてもらって、メニューも色々と教えてもらって、今残っているのが細巻きですね。
ナオ
今度はその細巻きも食べてみたいなー!
二軒目ということもあって、ついつい飲み過ぎてしまった。

前身である「絵里花」の頃の雰囲気を壊さず、自分なりにいいお店にしていきたいという小川さんの気持ちが伝わってくる店だった。気になるメニューが色々あったが、とにかく一品ごとの盛りにサービス精神に溢れているので、今後少しずつ味わっていきたいと思った。チャーシューの旨味が卵と黄身と溶け合う「チャーシューエッグ」は、そのままご飯にのっけたくなるような味わいだった。

次回予告

今回もそれぞれの店の、まったく異なる卵料理が味わえて楽しい取材だった。この企画、もちろん実際にお店に行って美味しい料理とお酒を味わっている時間も最高なのだが、テーマを決めて「どのお店にしようかなー!」と考えている間もかなり楽しい。実は、この日に次は小鍋にしますか。と、話したものの季節はもうすぐ春。時が立つのはあっという間ですね。というわけで、納谷ロマンさんから次回のお題が提案されるまで、引き続き楽しみに待とうと思う。


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