どっちの「粕汁」でSHOW!BOY(肥後橋)VS よあけ食堂(鶴橋)

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スズキナオ

ツッコミ

酒好きの友人と会うと「この前、いい店を見つけたんです!」「へー!知らなかった。じゃあ、あの店知ってます?」という風に、自然と情報交換が始まる。それは情報交換の場でもあり、同時に「そっちがこうなら、こっちはこうだ!」と、お互いが好きなものを自慢し合うような、ちょっと力の入る時間でもある。

酒を飲みながら友人とそんな話をしている時が私はたまらなく好きだ。先日も、ライター・編集者の納谷ロマンさんとやはり同じような会話をしていて、ふと、「じゃあお互いの好きな店に一緒に飲みに行くのはどうですか?」という展開になった。

私と納谷ロマンさんとは、よく飲みに行くエリアも、好きな店の雰囲気も重なるようでいてちょっと違っており、だからこそ面白いと思った。「いいですね!毎回テーマを決めて、好きな店とアテ紹介し合いましょう」と盛り上がり、立ち上がったのがこの企画である。初回のテーマは(この記事が公開される頃には少し季節外れだが)「粕汁の美味しい店」だ。さあ、行ってみよう。

手のかかったおつまみがお手頃価格な「BOY」

まず訪れたのは、ロマンさんオススメの粕汁がいただける「BOY」。最近、お店が徐々に増えつつある江戸堀エリアのニューカマーらしく、私も訪れたことがある[ラムのラブソング]など、コンセプチュアルな人気立ち飲み屋の系列店なのだそう。店主曰く「アテは直球で、ザ・酒場なメニュー多め」とのこと。が、メニューを眺めると、どれも見たことないメニューばかりで、驚かされるのだ。

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酒場のメニューを眺める時間って本当にいい。
ナオ
素敵な立ち飲みですね。ここはロマンさんの行きつけですか?
ロマン
近所なので、まあだいぶ来てますね。去年(2023年)の12月にできて。天満の「ラムのラブソング」の系列店なんです。
ナオ
あー!そうなんですね。そっちには行ったことがあります。
ロマン
ちょっと変わったアテが多いんですよ。値段はリーズナブルで。粕汁はその日によってあったりなかったりするんですけど、今日は事前にお願いしてあって。
ナオ
うおー!うれしい。「鯛出汁粕汁」っていうやつですね。じゃあそれと……。
ロマン
粕汁は締めにして、まずは「紫キャベツのコールスロー」、いいですか?いつも食べるんです。(しばらくして「紫キャベツのコールスロー」が運ばれてくる)
KFCをリスペクトしたコールスロー。きっと、食パンに挟んでもおいしい。
ナオ
コールスロー、最高!爽やかな味で。ヨーグルトの風味がいいですね。
ロマン
いいですよね。シャキシャキで。これさえあればいい。
ナオ
私の注文した「薬膳レモンサワー」に合いますよ。(しばらく楽しく飲んだ後、締めの一杯として粕汁を出していただく)
具材がごろっとしていて、食べる粕汁といった具合。柚子と一味がいいアクセントに。
ナオ
うおー!これが「BOY」の粕汁だ。すごい具だくさんで豪華な感じ。あ、めっちゃ美味しい。大根が美味しい。一個一個の具材の旨味がすごく引き出されてる。
ロマン
いい色のにんじんだ。金時にんじん。

店主:金時にんじんと、里芋、大根、ごぼう、豚肉、今日は寒いんでニンニクと生姜も入れました。

ナオ
(店主のケントさんに向かって)具材はその時々で違うんですか?

店主:そうですね。冷蔵庫にあるものを入れるっていうか。今日の鯛出汁も、鯛のアラがあったんで、それで取って。

ロマン
本来的ですよね。粕汁ってそういうものですもんね。
ナオ
(店主のケントさんに向かって)味付けもその日によって?

店主:うちはいつも播磨の酒蔵の酒粕を使っていて、ベースは一緒なんですけど、粕の量はその日によって調節します。アテにするような濃い粕汁にするか、締めに飲んでもらいたいような、さらっとした方にするか。今日はあっさりめの優しい味にしようと思って、少しだけ白味噌を入れてます。

ナオ
なるほどー!絶妙なバランスですね。このままご飯にかけても美味しそうだし。和製クリームシチューだな。粕汁が苦手な人でも食べられそうな味わい。
ロマン
大人になってこんなに粕汁が好きになると思わなかったですよ。
ナオ
私もです。子どもの頃は匂いだけでも苦手だったんで。いやー、「BOY」の粕汁、一年中食べたい味だな。

ふたりでいろいろと飲んで食べて、このお値段。

普段、江戸堀のあたりでお酒を飲むことがあまりなくて、しかも「BOY」さんのようなかっこいい雰囲気の店には割と気後れしてしまう自分なので少し緊張したんですが、連れて行ってもらえてよかった!店主のケントさんも気さくで、おつまみが本当にどれも美味しい。粕汁も最高でしたがロマンさん一押しの「紫キャベツのコールスロー」が好みでした!ぬか漬けをいただいたらそれも美味しくて、ロマンさんと「粕汁の次はぬか漬けの旨い店を紹介し合いましょう!」と盛り上がりました。

BOY
住所:大阪市西区江戸堀1-19-2 101
電話番号:090-3734-3790
営業時間:16:00〜24:00
定休日:日曜休
SNS:Instagram

メニューの数だけドラマがある「よあけ食堂」

続いて訪れたのは、私が好きな粕汁をサーブしてくれるお店へ。小さな路地が迷路のように入り組んだ鶴橋駅前のアーケード街にあって、70年以上に渡ってこの地で営業を続けてきた老舗食堂。お地蔵さんのお堂脇の路地に沿って、奥へ長く伸びるカウンターが朝9時という早さから出迎えてくれる。

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乾杯。私はビールで、ロマンさんはレモンチューハイ。氷が多くて嬉しい。
ロマン
「よあけ食堂」、久々に来ました。取材で何年か前にお世話になって。
ナオ
そうだったんですね。ここはもう、鶴橋の名物店ですよね。
ロマン
ナオさん「いつもここに来たらこれを食べる」っていうのはありますか?
ナオ
いつもその時々のものを食べている気がします。あ、でもあれは必ず食べます、あのキムチそうめん炒めみたいな……。

女将:「太(ふと)っちゃん」です。

ナオ
そうそう!「太っちゃん」だ。この店はお客さんのリクエストに柔軟に応じて料理をしてくれるから、その注文の発案者の名前がそのままメニューになったりしてるんですって。「太っちゃん」という人が編み出したのが、豚キムチとそうめんを一緒に炒めたやつで。
メニュー数が膨大である。もはや、これを眺めながら飲めてしまう。
ロマン
美味しそう!それももらうとして、まあでも、粕汁は必須ですね。
ナオ
そうだそうだ。(女将さんに向かって)粕汁ってまだありますか?

女将:今日はまだあります。寒いうちはあるんです。

ナオ
体感で決まるんですね(笑)間に合ってよかった。では粕汁と「太っちゃん」をお願いします!(しばらくして粕汁ができあがる)
質実剛健な、ザ・粕汁。このシンプルさが、素晴らしい。左右の小皿はお通し。
ロマン
うわー!これだ。僕の好きなドロッと系ですね。
ナオ
にんじん、こんにゃく、お揚げ、鮭もほろほろと溶け込んでいて、柚子の香りもふわっとして。

女将:うちの粕汁、人気なんで、娘の結婚式でも常連さんの席に出したんですよ。

ロマン
結婚式で粕汁(笑)それは最高ですね。
ナオ
もう、縁起物ですよ。いや、美味しいな。(女将さんに向かって)これは、何の酒粕を使ってるとかあるんですか?

女将:企業秘密(笑)でもお客さんに「豚肉足して」って言われたら足すし「もっと鮭入れて」って言われたら焼いて入れます。うどん、そば、おでんの時期だったらおでんの大根入れたりもします。

ナオ
お好みでカスタマイズできるんだ。(「太っちゃん」ができあがる)
青唐辛子の爽やかな辛さがたまらない、太っちゃん。酒がすすむ味付けだ。
ロマン
うん!うまい。
ナオ
ちょっとだけ入れてもらった韓国唐辛子がいいですね。ピリッと辛ウマ。
ロマン
これだけでだいぶお酒が飲めますね。
ナオ
本当ですよ。(女将さんに向かって)生ビールおかわりお願いしますー!
こちらもふたりで飲み食いして、このお値段。いやはや、ナイスである。

午前中から常に盛況で、そして、いつ行っても気さくに迎えてくれる「よあけ食堂」。路地に沿うように長く続くカウンター席に座ると、家庭的な雰囲気に心がほっと落ち着き、ついつい長居したくなってしまう店である。冬季限定の粕汁は柚子の風味が印象的。しっかりと具だくさんなところに、この店のあふれんばかりのサービス精神を感じる。お店の娘さんの結婚式にも振る舞われたほどに常連さんたちに愛されているお味だと聞き、ありがたみもひとしお。久々にこの店に来たというロマンさんもこの粕汁が気に入ってくれたようで、なんだからうれしかった。「いわし汁」など、粕汁以外にもたくさんの名物メニューがあり、軽く一杯飲みたい時にも、ちょっとがっつり食事をしたい時にもおすすめ。

よあけ食堂
住所:大阪市東成区東小橋3-17-23
電話番号:06-6972-0992
営業時間:9:00〜17:00
定休日:水・木曜休
SNS:無し

次回予告

打ち上げで軽く一杯やった酒場[ヒロカワテーラー]のぬか漬け。美しい。

[BOY]と[よあけ食堂]、雰囲気はそれぞれ異なりつつも、安くて美味しいものがたくさん食べられて、何より粕汁が美味しい素晴らしいお店だった。ロマンさんと私とで好きな店を紹介し合うこの企画に手ごたえを感じ、「今度は“ぬか漬けの美味しい店”をテーマにしてみますか!」と早くも次回の計画で盛り上がった。せっかくだからロマンさんが「うまー!」と驚いてくれるようなお店を選びたい。さて、どこを紹介しようかなー!