⸺その看板は?
ある工場が騒音発生を周知すべく設置している看板です。2、3年前に九条の行きつけの喫茶店から弁天町まで歩いている際に見つけました。街歩きは大学のゼミの先生の影響で始めたライフワーク。もう10年以上は続けていて、放っておくと人からひんしゅくを買うほど歩いてしまいます。今回ピックアップしたのは看板ですが、猫よけの甲類焼酎のペットボトルやカラーコーンの隊列、通行人の目を意識しているとしか思えない凝った植木など、街で感じた違和感を写真に収めるのが常で。それらを毎日インスタグラムに投稿しているんですが、正方形かつハッシュタグなしというリリース当初の仕様を固く守り続けているのは、我ながら謎のストイシズムだと思います。
⸺その看板のええところを教えてください。
なんといってもこの擬音語ですね。「キーンキーンガシャンガシャン」「ドンドン、ズシンズシン、バンバン」「ドスン ドスン カランカラン」「ゴーゴー 上下 ゴーゴー」「ズーン ズシン ゴーゴー」。言葉を扱う仕事をしていますが、こんな表現は到底考えられないです。騒音の種類を細分化する必要はあるのか、そもそも記載する必要さえあるのか。正直、周辺住民が気にするのは音の違いではないと思います。最大の違和感はクレーンの音「ゴーゴー 上下 ゴーゴー」。上下動をわざわざPRするあたりに、職人魂めいたものを感じます。それにいち企業が周辺に割拠するねじ工場の心情を代弁しているかのような、業界愛みたいなものも微笑ましいです。
⸺あなたにとって看板とは?
街自体がコンテンツだと思っていて、アイドルで例えるなら「箱推し」の一端に過ぎないんですが、作為的なものには惹かれません。作り手の目的から乖離したところに生まれる違和感、極論するなら意図しないアートの目撃者になりたい思いで、街を歩いています。そう考えると、大阪くらいの大都市は実にコスパがよろしいですね。車社会とは違って、徒歩移動の速度を前提とした細かい、ある意味でみみっちい情報があふれてるから。それに街の新陳代謝が早いぶん、ある日写真に収めたものが1週間後にはなくなってることだってある。そやから、どんだけ歩いても歩きすぎることはないんです。せっかくそのへんにおもろいもんが転がってるんやから、大阪にいる以上は歩かなもったいないと思いますよ。
※掲載時(2023年11月27日)の情報です
取材・撮影:オカジマアヤノ