⸺そのグラウンドは?
自宅近くの、神崎川の河原のコンクリートです。上に「神洲橋」が架かっていて、日差しや多少の雨はしのげます。僕にとってここはダンスの練習場所でもあるし、何もせずぼーっとしながら自分と向き合う場所でもあるんです。6年前に近くに引っ越してきて、散歩しているときにたまたま見つけました。ひとりになりたいときは、ついここに足が向かってしまいますね。ダンスや音楽のことだけでなく、日々あったことについて静かに考えたいとき、よく来ています。遠くからトランペットの練習をしている音が聞こえてきたり、散歩している人がいたりと、のどかな雰囲気です。阪急電車が間近で見られるのもいいですよ。音はかなりうるさいですけど(笑)。
⸺そのグラウンドのええところを教えてください。
スタジオやステージと違って地面がでこぼこなところです。踊るなら、整備されたフラットな場所のほうがいいに決まっているのですが、このマイナスな環境だからこそ見えてくることがある。ブレイクダンスって、スピンだったり派手な動きをイメージしますよね? 粗い地面だと、当たり前ですがそういう技はやりにくくなります。その中で何ができるか、ある種強制的に模索させられるんです。でも、条件が良くない中でこそ、新しいものが生まれると思っています。この考えになったのは二十歳のころ、1年ほどニューヨークに滞在したときの経験が影響しています。向こうのストリートって例えば地面が傾いていたり、日本では考えられないくらい条件が悪いのが当たり前で……。その環境で、当時の自分は思うようなダンスができず、自信を打ち砕かれました。外的な条件に左右されない力が大切だと気付かされたんです。
⸺あなたにとってグラウンドとは?
動きを制限する枷(かせ)がある中で、自分に何ができるか考えさせられる場所になっています。ブレイクダンスは、身体への負担が大きい表現でもあります。これからも長く踊り続けるためには、若いとき以上に「考える」ことが必要になってきます。一見シンプルな動きの中で、どのように自分らしさを表現していくのか。表現というのは、具体的な体のパーツの使い方、アイデアだけではありません。ダンスとの向き合い方をときどき振り返ることも、楽しく踊り続けるためには欠かせないと思います。この粗い地面は、B-BOYとしての強さを手にするためのヒントを与えてくれています。
※取材時(2024年12月26日)の情報です
取材・撮影:山瀬龍一