超生命体の偏愛図鑑

山台坦 さん

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鉛筆蒐集家・前夜通信社社長(77歳)
大阪市北区在住/山口県防府市出身

鉛筆3万本集めちゃいましてん!手書きの矜持が詰まった巨大ペンシル

⸺その文房具は?
アメリカの鉛筆メーカーに特注した「ジャイアント・ウッド・ペンシル」です。長年、競馬新聞の執筆に携わってきたのですが、還暦前後に鉛筆のコレクションを始めて、総計1万本を超えたあたりで「節目に大きいのもほしいな」と思いましてね。軸には「PENCILMAN HIROSHI」と入れてもらいました。いわばコレクターとしての名刺代わりです。黄色を選んだのは、アメリカのディクソン・タイコンデロガという老舗が製造する鉛筆の軸が黄色だから。向こうの鉛筆の代名詞ともいえる定番品へのリスペクトを込めました。

⸺その文房具のええところを教えてください。
ディスプレイとして非常に優れていながら、本当に字が書ける実用性です。ちょっと書いてみましょうか? ほら、フォームが難しいけど、ちゃんと「えんぴつ」って書けたでしょう。お尻のところについている消しゴムも実際に使えるものなんです。もうひとつはこれを持って百貨店の展覧会に出かけると、出展者の画家の方に共鳴するようで喜んで記念撮影に応じてもらえることですね。持ち込むときはちょっと怪しいおじさんになってしまうけど、封を開けてみると一気に打ち解けられるんです。そんなふうにして「ペンシルマン」のイメージが定着したせいか、蚤の市で「おい、鉛筆!」と呼びかけられて、本来は売り物にならないちびた鉛筆を押しつけられるのは困ったもの(笑)。結果的に会社の一画で「えんぴつ1万本超えちゃいまし展」という展示を開いていたのが、いまや3万本を超えるまでになってしまいました。

⸺あなたにとって文房具とは?
人間味、その人の個性を表してくれる道具です。いまでも競馬の原稿は鉛筆で手書きしていますが、どうしても途中で削る必要が出てくる。その行動が脳を違う方向に働かせる気分転換になって、思わぬ発想が出てくることもよくあるんです。そこがパソコンとの違いですね。ちなみにコレクションを始めたきっかけは、小学生時代に薬のおまけの鉛筆ばかり使っていた私を見かねた祖母が、きちんとしたメーカー品を買い与えてくれた過去を思い出したこと。コーリン鉛筆といって、いまはもう存在しない会社のものでしたが、社名や三角形のロゴのいわれは未だにはっきりしていません。それらを調べて文章に残すのが、今後のライフワークです。もちろん、執筆には鉛筆を使いますよ。

※掲載時(2024年6月14日)の情報です
取材・撮影:関根デッカオ