⸺その器は?
50年ほど前、先代マスターの父が購入したイングランド製のカップ&ソーサーです。もうだいぶ前の話やからはっきりしたことは分からんけど、外国への憧れもあったんちゃうやろか。新聞記者や洋品店の経営を経て喫茶店を開いたおしゃれさんで、新しいもの好きやったしね。とにかく舶来のええもんを揃えて、お客さんをもてなしたかったんやと思います。
⸺その器のええところを教えてください。
やっぱり絵柄がかわいいとこやね。ほら、カップの内側にも花柄があるやろ? そこがお気に入りです。なんの花か? そんなん分からんわ、調べてくれへん? ちなみにうちは8種類のコーヒーを出していて、豆のグレードに合わせてカップも決めているんやけど、これは1,100円のブルーマウンテン「B」にしか使いません。縁が薄めやから口当たりもよくて、ブルマン特有の柔らかい香りがよりくっきりと感じられますよ。
⸺あなたにとって器とは?
商売道具でありつつ宝物です。特に父が遺してくれたカップ&ソーサーは、いまではなかなか手に入らないものばかり。昔のものはデザインも気が利いていて、ずっと同じ場所で立ち仕事をしていると目の肥やしになる。ちょっとした模様に目を留めるだけでも、気分転換できるもんですよ。それと興味があるお客さんは器もよく見てくれているので、会話のきっかけにもなるのもうれしいです。そこからいろんな話題が広がるのは、喫茶店という商売をやっていてよかったと思える瞬間やね。
※掲載時(2024年5月21日)の情報です
取材・撮影:関根デッカオ