⸺その棒は?
僕の師匠の、ごみ拾い用のトングです。僕、毎朝6時に起きて、ごみ拾いしてて。目指せ連続1000日で、もうすぐ700日。やり始めて1年目の頃、よく会う人から「天王寺にも毎日ごみ拾いやってる人おるよ」って聞いて。行ってみたら、僕よりもっと昔からごみ拾いを続けてる人がいて、「師匠」って呼ぶことにしました。で、これはその人から譲り受けた特別なトング。いつも使うマイトングもあるんですけど、こっちはおまもり。家に大事に飾ってて、師匠のマインドを思い出せるようにしてます。
⸺その棒のええところを教えてください。
ごみと、まちと、対話できるところ。これね、自然とごみと会話するようになるんですよ。「なんでお前ここ落ちてんねん」とか、「きみらこんなところに溜まってたんか」とか。ごみから、まちにいる誰かの物語を想像したり、まちの特徴が見えてきたり。ちょっと探偵になった気分。自分自身とも対話できるし。だから、僕がやってる活動は、「まちをクリーンにしましょう」っていうのとはちょっと違う。人とのお喋りに近いです。
⸺あなたにとって棒とは?
相棒ですかね。僕、「劇団子供鉅人」って劇団で役者やってたんですよ。「東京行ってやるぞ! 全部捨てて、やるぞー!」って上京したんですけど、2022年に解散しちゃって。仲間の中で僕だけ大阪に戻ってきた。何も捨てられてへんかった。で、めっちゃ落ち込んで、俯きながら近所をうろうろしてたら、目の前にごみが落ちてた。拾った。「あ、俺の前にごみがある……いや、今の俺の前にはごみしかない」って、毎日ごみと向き合うようになって。ごみの声って、めちゃくちゃ小っちゃくて繊細で、忘れられやすい。だから1000日と言わず「俺が拾い続ける、俺がごみを愛すぞ!」「もう、ごみと結婚するぞ!」って。対話して対話して、その結果、まちが綺麗にもなって、無差別に無意識に誰かを幸せにできたら。そこは演劇してるときと、同じ気持ちかな。
※掲載時(2024年5月21日)の情報です
取材・文:しまだあや/撮影:トミモトリエ